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やんだととーちゃん

 そんでけっきょく、どーなったんですか。
 なんて口にできるはずもなく、だからそれで安田がどうしたかって、どうもしなかった。
 そこそこには好きだった、何度か関係を持ったことさえあるセンパイが海外に飛び出して、ようやく帰国したと思ったら子連れだった、なんてまあ別に、きっと、よくあることだ。
 たぶん。
 男だけど。
 自分も相手も。
「だから近々、引っ越してくるからよろしく頼むわ」
「へえ、マンションとか借りるのか?」
「んや、一軒家借りる」
「ほー」
 いいとこ見つかったもんだから即決しちまったよ、なんてなんでもないことのように、ボトルコーヒーを大量に氷を放り込んだマグに注いで啜るその人に、自分が何を言えようか。
 三人で囲んだ円卓は、大学時代に安田への引越祝いだと、彼らがリサイクルショップで買って勝手に置いて帰った代物だった。何が引越祝いってそれはまあ安田が、二年次に進級する際、神奈川の実家からはるばる大学まで徒歩15分築3年のそれにしては安い1Kで一人暮らしを始めることになったこと、に対しての祝いだ。
 あれからただ年月だけが過ぎて、就職してからもまだまだ、コンクリート打ちっぱなしで見栄えだけはよいものの、寒暖の変化には非常に弱いこのワンルームを抜け出せそうにない安田は、たとえこの部屋を出る時が来たとしても、多分真っ先に新しい部屋へと運びこむことになるのは、この机だろうと思っている。
「だからまあ、な、――ヤンダ」
 唐突に自分の呼び名が出て、はっと顔を上げた。
 目の前の、グラスに注いだオレンジジュース、を注視していたように見えるだろう自分の表情は不自然ではなかっただろうかと思う。ちゃんと取り繕えていただろうか。
「――は?」
 間の抜けた声を上げれば顔を見合わせた二人は、対称な表情を浮かべてばらばらと一冊の手帳のページをめくったかと思うと、特に予定も書き込まれていないマンスリーページを安田の顔に押し付けた。標準サイズよりも割と大きめの手帳は間違いなく、花屋なんてその体躯からは想像できなさすぎる職業に落ち着いたセンパイの、それだった。
 過去に何度もこっそりと覗き見た、細々と予定の書き込まれて使い込まれた黒革のそれではなく、
 ……黒革って。
「コイとよつばの引越し手伝いの日取り。ここでいいだろ」
 ぐいぐいと顔に寄せられる手帳に「近いっス近いっス別にどこでもいいっス」なんて返しながら、話を聞いていなかったなんて口が裂けても言えるものかと思う。たとえ気付かれていたとしても。
「まーヤンダだしな」
「ヤンダだからな」
「何がっスか!」
 ようやく引いた攻勢にふうと息をつけば、別に期待してねえし、ヤンダだし、なんて繰り返される。腹が立つというか、もう何度となくこういう状況に陥っていたのに、結局はその状況から逃れられないってことは、結局のところこのポジショニングが好きなんだろうなあ、思うしかない。
「まー元気なのがとりえなんだ、元気なのが」
「また肉食いたいな肉、食いっぷりが見事だった」
「引越って言ったら、取り敢えず蕎麦だろう」
「よつばは蕎麦食ったことあんのか」
「あー、どーだったかな、……まあ少なくとも似たようなモンは食ったことあるだろ」
「アバウトだな」
「アバウトだ」
 まあ結果オーライでここまで来てるしな。
 違いねえや、と笑う二人に、とっくの昔に氷の解けたグラスを口へと運びながら、取り敢えずなんで俺んちなんだろうなあなんて疑問は、やっぱり口にはできないなと安田は思った。
 自分との付き合いは結局結果オーライで流されてしまうんだろうかなんてことも。
 いまは、まだ。


 

| 下書き | 23:49 │Comments0 | Trackbacks0編集

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